第11期生卒業に際して

日本を代表する作詞家の松本隆氏がNHKの番組内で示唆に富んだ話をしていた。彼は1980~90年代、松田聖子をはじめとする数多のアイドル歌手に楽曲を提供し、寺尾聡の『ルビーの指輪』やKinki Kidsの『硝子の少年』など数々の名曲を世に放った稀代のヒットメーカーである。しかし、ロックバンド「はっぴいえんど」のドラマーとしてサブカルチャーの世界にどっぷりと身を置いていたその前歴を知る人は少ない。彼曰く、「サブカルから入るという方法論はとても良かった。有名になる前にできるだけ多くの情報を仕入れて、自分の研鑽ができる。メインストリームに乗ったら、あとはそれまでに仕入れた情報やテクニックを売れるように使えばよい」・・・作詞家としての彼の創作の源には、実はロックバンド時代に得た豊富な引出しがあった。

法学部卒で銀行員を経由してマーケティングの教員となった私のキャリアも、一見すると何の脈絡もないものに映るかもしれない。その非線形な人生行路に対し、周囲からは、やれ遠回りだの非効率だのと喧しく言われたものだ。しかし、畑違いの領域から得た知見は、むしろ研究を推し進めオリジナリティあふれるものにする原動力となった。また、教育において、消費者の実像に迫れず苦悩するゼミ生に対し愁眉を開かせるような別の視角を提供できているのも、すべて過去に蒔いた知識や経験の種だ。思えば、大学受験の頃から近道とは程遠い勉強方法だった。文系受験には必要がないとされる数Ⅲをやってみたり、浪人した後に理科科目の専攻を生物から地学に変えてみたり・・・。銀行に就職した後も、このままでよいのかという疑問や何かしなければならないという焦りから、何が必要なのかもわからず、手探りでビジネス書を渉猟した。そして現在でも、キャンパス外の様々なバックボーンを持つ方々とのお付き合いを大切にしている。

インターネットの普及や詰め込み教育への批判など、この20年で社会は効率重視へと向かってきた。松本氏や私が大切にしてきた、いつ役に立つか定かではない“地味”なインプットは鳴りを潜め、多くの若者が「これ、覚えて何になるのですか?」と問い、企業研修の受講者も「今回の研修で明日の業務に役立つことを見つけたい」と抱負を語る。しかし、不思議なことに、短期的な効率を追い求めれば求めるほど、長期的な視点で見た場合の人生の広がりは失われる。未来を担うゼミ生たちには、無駄花になるなどと及び腰にならず、長期的な目線での自己投資を怠らないでほしいと切に願っている。社会へ出ても自己の研鑽を忘れず、深みのある人材となってゼミに帰還してくることを願ってやまない。卒業おめでとう!!

 

平成30年3月吉日

獨協大学経済学部教授
博士(学術)
有吉 秀樹

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