第13期生卒業に際して

「若き息なれば風船割れ易し」・・・母校の俳句部の顧問として生徒を度々俳句甲子園で優勝に導いている佐藤郁良先生の句集 『しなてるや』 を開くと、表紙見返しに達筆でそのような一句がサインされていた。風船は春の季語。なれば、この場合の風船とは、若者たちが将来について思いをめぐらし、抱く夢を喩えたものだろうか。粗削りで勢いのコントロールができない若き息は、猛烈に風船を膨らませ春の空に割れ散る。それをハラハラしながらも、微笑ましく傍らで見つめる師。受験という青春の第一関門に挑む生徒たちの涙と挫折、そこから立ち上がろうとする者への讃歌を詠んだように思える。

それから4年。少し大人の世界を知った若者たちは、就職活動という青春の第二関門に臨む。この間に大空は“夢を描くだけのキャンバス”から“実際に飛び込む空間”へと変貌した。突き付けられた現実を前にして、若者たちの行動は様々だ。暴発を恐れるあまりにポテンシャルを生かさず小さな風船しか膨らまさない者、いろいろな選択肢があるのに「これしかない」などと言って1つの風船に固執する者、「高く飛ぶばかりが人生ではない」と嘯く者。「好きなことをやるのが一番だよ」「本人の人生なのだから、本人が決めればよいのだ」・・・一部の大人たちが発するそんな耳心地の良いセリフを利用して、不安に駆られる己の心に蓋をする。ただし、そんな理解ある大人のふりやもっともらしい自己責任論の裏に大人の無責任さが見え隠れしていることに気づかないのも若さゆえなのか。

ファーストキャリアがモノを言う日本社会。そんな社会に彼ら彼女らを送り出す我が身としては、佐藤先生より少し厳しい眼で学生たちを見つめざるを得ない。例年、経験ある年長者の立場から、少しでも空高く舞い上がり、良い軌道を描くことのできる風船になるよう助言してきた。風船がたくさん割れて傷つくこともあるだろう。それでも、若さを武器にして試行錯誤を繰り返し、がむしゃらに向き合い、心の糧としてゆく。そんな経験をした若者がまた今年も巣立って行くことに最大の賛辞を送りたい。卒業おめでとう。

令和2年3月吉日

獨協大学経済学部教授 博士

有吉秀樹

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