第14期生卒業に際して

バブルの残り香が消えてない1992年早春。高校卒業式。人生の節目の1つとも言えるこのイベントの記憶が私には全くない。国立一本に絞っていたにもかかわらずセンター試験の数学で失敗し、落胆と虚無感の渦中で迎えた卒業式など私に何の意味ももたらさなかったからだ。積み上げてきたものの質と量には自信があり、自他ともに順当な結果を予測していたはずなのに・・・。御茶ノ水駅の改札を出てスクランブル交差点を渡り、JRの線路沿いに駿河台の予備校へ向かう道。この道はどこに続いているのだろうか?授業中、真後ろの席の二浪目の男が呟く。「あの講師の話、もう聞き飽きたよ。多分もうすぐ例のギャグ言うぞ。ほらね。」確かに、どの講座も知っている話ばかりで食傷気味だ。いったい何が欠けていたのだろうか?斜に構え、世の中を少し歪んで眺めていた私は、トレンディドラマの再放送を見ながら、先に大学生活を始めた1人の旧友を恨めしく思い出していた。高2~高3にかけての2年間、隣の席からチクチクと繰り出される入試情報。教室では平静を装っていたが、家に戻ると不安が襲ってくる。明らかに翻弄されていた。試験会場に着いた時、すでに私の心は蝕まれていたのだ。

バブルの後処理の出口が見えない1996年春。4年ぶりに戦線の第2幕が切って落とされる。今回も現れた攪乱分子。「あそこの会社、実は陰で動いているらしいよ」「まだ、○○をやっていないようだとまずいんじゃないか」・・・。故意なのか無意識なのかは定かではないが、必死に蓋をしようとしている不安な心をこじ開け、ゼミの同期たちを徒に煽る。しかし私は二の轍は踏まなかった。心が強くなったのか、自分の軸が固まったのか、物事の本質が少しは見えるようになったのか。皆が融けない氷河期の氷の壁に阻まれている中、雑音など全く意に介さず、砕氷船の如く一直線に砕き切り、暑い夏を迎える前にスーツを脱いだ。1日で8社23回の面接。おそらく誰も打ち破れない前人未到の記録だろう。

かつての震災、そして今度のコロナ。異なる日常の訪れに人の心は揺さぶられ、身を守るために他者を煽動する。根も葉もない噂。真のような顔をした嘘。様々なものが跋扈してやまない。本質を見極められる眼と自らを支える心の軸があるならば、いつの世も逞しく生きて行けるだろう。14期生がこのゼミで学んだことがその一助になったならばこれに勝る喜びはない。卒業おめでとう。

令和3年3月吉日

獨協大学経済学部教授 博士

有吉秀樹

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